「茉莉花! 早く起きないとちこくしちゃうよ!」
スマホの目覚ましと、おばあちゃんの声で目を覚ます。
大きくあくびをして、わたしはもぞもぞとベッドの上にあるスマホの目覚ましを止めた。
おばあちゃんの声、今日もよく通るなぁ。
窓のカーテンを開けて外を見ると、まだ薄暗い。
季節は二月中旬。まだまだ冬は開けそうにない。
わたし、茉莉花は、今郊外の白星町という場所に住んでいる。
ここはわたしの母方のおばあちゃんとおじいちゃんの家。
わたしは今、ママの旧姓甲斐田を名乗り、おばあちゃんたちと暮らしている。
一年前のあの日以来、わたしは芸能界を辞めた。
辞めたというか、続けられなくなってしまった。
人前で笑うことができなくなってしまったから。
仕事ができなくなって引きこもるわたしを見かねたおばあちゃんが、わたしを都心のマンションから自分の住む郊外の家へと連れてきた。
わたしは名字を変え(本当は名前も変えたかったぐらいだけど……茉莉花って珍しいし)近くの町立中学へ通っている。
「茉莉花、今時そんな長いスカートの子、いないよ。髪型だって、そんなに前髪長くして、目を悪くするよ。その黒縁眼鏡も、どうせならもっと可愛いのにしたら?」
制服に着替えたわたしに、おばあちゃんは心配そうに言う。毎日、毎日。嘆くようにといった方が正しいかもしれない。
普通、おばあちゃんって存在はさ、短いスカートとか嫌がるんじゃないのかな。髪型だって、前髪は確かに長いかもしれないけど、きっちり三つ編みにしてるし、どこからどう見ても地味で良くない? この姿、すっごい安心するんだよね。
っていうか、こうしてないと町なんて歩けないよ。わたしはブス。目立ちたくなんてない。
「茉莉花、またそんなほくろまで描いて……可愛い顔が台無しだよ。綺麗な栗色の髪色まで黒に変えてしまうし」
洗面台の前で、左目の下に大きめのほくろを描いていたわたしに、おばあちゃんが言う。
「いいよ無理して毎日可愛いって言わなくても。わたしはわたしの顔を一番よく知ってるから」
卑屈になってるわけじゃない。本当にわたしの顔はブスなのだから、仕方がないことなのだ。
引っ越してから何度も洗面台の鏡に映る自分を見てきたけど、なるほど確かにわたしは世間の皆様の言う通り可愛くなんてなかった。ニキビだらけの顔、目の下にはいつもクマさん。かさかさの唇。可愛いには程遠い。
事実を捻じ曲げてまで、わたしは自分を可愛いと思いたくない。ブスはブスらしく生きていればいいんだ。
長いスカートも、黒縁眼鏡も、三つ編みも、このほくろだって、この殺伐とした世界を生き抜くための武装。
「いってきます」
玄関のドアを開く。少しずつ明るくなる空を見て、暗闇で生きていたいわたしは心の中で「太陽のバカヤロー」なんて悪態をつく。
どうでもいい一日が、今日も始まるのだ。
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