序章
太陽の光を取り込み、温められた地面を冷やす雨が降る。
しとしと、しとしと。紅く色づいた街路樹の葉の上を、雨粒が静かに滑り落ちていく。
そんな中、店の外に流れていく微かな焼き菓子の匂いに誘われて、彼らは月の光に照らされながら”常若の国”からやってくる。
自慢の羽根を輝かせて歌い、まるで凍った湖の上を滑るかのように踊る彼らは、毎夜誇らしげに喫茶店のドアベルを鳴らした。
この街に住む人々にその誇らしげな姿を見せることはないし、ハープのように美しいその歌声を聴くことはないのだけれど、わたしにとってそれは決して夢や幻ではなかった。
わたしはそんな彼らのためだけに、今宵も宴の準備をするのだから。
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