record:08.嘘と真実
8. 薄暗闇の中、ヨーダはカナタと廃教会で別れた。本当は無理にでも手を引いて連れて帰りたかった。けれど、無理に連れて帰ったとして、はたして自分にカナタを守ることはできるのだろうか?カナタが何に怯えているかもわからず、まして今の自分…
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:07.変えられないもの
7.陽が沈み始めるまで、ヨーダとカナタは廃教会で過ごした。相変わらずカナタは自分のことをあまり話したがらなかったが、音楽の話題を振ると、自身が好きな歌手の話を少しだけヨーダに聞かせてくれた。 「カルティア出身のアンナ・ティガルトっ…
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:06.月のような優しさを
6. 「……心配しなくても、悪魔っておまえのことじゃないよ。これでもうここには誰も来ないだろ。俺がいるってわかったから」 自分の横で立ち尽くしている幽霊に、ヨーダは顔を見せずに声をかけた。深くかぶったフードがなんだか重く…
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:05.つぶやくように
5.街の中心にある時計塔の鐘が、十二回鳴った。そろそろかな、とヨーダは白いテーブルクロスをかぶり、二階の窓から教会の入り口を覗き見る。 「いいか? 俺が幽霊になってやつらを追い出すから、おまえは奥の部屋から出るなよ?」 …
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:04.大事な場所
4.昨日の雨が残していった水たまりに、映る日差しがまぶしい。ヨーダはいつもと同じように鳩に残したパンを与え、ぼんやりと昨日の出来事を思い出していた。あの傷だらけの幽霊は、今日も廃教会で歌うのだろうか。だとしたら、本当はもう一度聴きたかった。…
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:03.灯と火花
3. ヨーダはうずくまる幽霊の後頭部を見ながら、ああ、そうか。と思った。 きっとこいつも、自分の瞳を見るのが怖いのだ。無条件に人を裁く、この蒼い瞳が。「顔、上げろよ。別に、この目で何かしようってわけじゃない。今、見えないようにしてるし」 …
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:02.ちいさな幽霊
2. 翌日の朝。カーテンに光を遮られた部屋で目を覚ますと、ヨーダはフードをかぶり直し、昨夜机に置いた夕食のパンを手に取った。パンはもうぱさぱさに乾いている。 そのパンを手にしたまま部屋を出て階段を下り、裏口の扉から裏庭へ行く。そしてそこに…
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る
record:01.まどろみとメロディ
あなたを忘れることは 自分を否定すること 長い長い時が流れて いずれこの世界が あなたを拒絶し 忘れようとも わたしの世界に色をくれた あなたの優しさを わたしは決して 忘れない そよ風が、木々の枝を静…
文章路地裏の風使い,風はゆびさきに遠く吹き去る