カルミナの繭

record:03.それは夢か幻か

夜の喫茶店を始めてから、瞬くたびにこぼれ落ちそうな星の夜空を目にしてきた。マーリンは店の看板を外に運びながら、毎晩必ず夜空を見上げては、いつもと変わらない静かな夜に感謝していた。今日も無事、お店を開くことが出来ます。みんなの喜ぶ顔が見られま…

record:02.優雅に朝食を

「……で、このまめつぶウサギは、今我が家のテーブルの上で優雅に朝食を。というわけか」マーリンの父でカルペディエムの店主であるコルトが、今朝郵便受けに乱暴に突っ込まれていたしわくちゃの新聞を丁寧に手で伸ばしながら言った。テーブルの上では、昨夜…

record:01.真夜中の訪問者

 1. 幾度となく繰り返した戦争で大地を削り、敗戦を境に外界から国交を閉ざした小さな街がある。その街の大通りはいつも閑散としており、長い距離を置いて点々と並ぶガス灯が地面の煉瓦を照らしていた。そんな大通りにある喫茶店"カルペディエム"に、深…

序章

序章太陽の光を取り込み、温められた地面を冷やす雨が降る。しとしと、しとしと。紅く色づいた街路樹の葉の上を、雨粒が静かに滑り落ちていく。そんな中、店の外に流れていく微かな焼き菓子の匂いに誘われて、彼らは月の光に照らされながら"常若の国"からや…